枯れた三十路もネットならイケメン男子になれる!
Webコミックサービス「comico」で連載中の『ネト充のススメ』は、
理不尽な仕事に耐えきれなくなり退職した三十路のニート盛岡森子が、
オンラインゲームの中では、イケメン男子・林となり、もう一度トキメキを取り戻す? ラブコメディ。
辛辣な現実を逃げ、ネトゲの世界に安息を求める主人公をリアルにそして丁寧に描いた当作品は、
たくさんの読者の共感を呼び、高い支持を得ています。

本作の作者でイラストレーターとしてもご活躍されている黒曜燐さんに、
人気作品誕生の舞台裏や、イラストの仕事などについて伺いました。

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●『ネト充のススメ』は、最初の作品だった

―――『ネト充のススメ』は、オンラインゲームが舞台ですね。
ゲーム内での出来事をリアルに描いていますが、よくプレイされているのですか?

黒曜燐さん: 『ネト充のススメ』の世界と同じMMORPGが好きで、以前はよく遊んでいました。
私は、ゲームをひたすらやりこむというよりは、他のプレイヤーと交流をすることが好きだったので、
その経験やそのとき出会った個性豊かな方々を作品に反映させています。


―――完成度の高い作品と読者から高い評価を得ていますが、
いつ頃から漫画を描いていますか?

黒曜燐さん: 『ネト充のススメ』を描く前は、漫画は趣味で描いていました。
といっても、浮かんだことを少し描いては行き詰まるというのを繰り返していた程度で、
コンテストなどに応募したことすらありませんでした。
『ネト充のススメ』は、昨年の10月よりもう半年以上描いているのですが、
1つの作品をこんなに長く描き続けているのはこれが初めてです。
自分でもここまで続いていることに驚いています。


―――『ネト充のススメ』が、ほぼ最初の作品だったとは驚きました! 
では、comicoに参加したきっかけは何でしたか?

黒曜燐さん: 私は、もともとイラストレーターとして活動していたのですが、
comicoの運営の方からオーディションの案内をいただきチャレンジしました。
ちょうど同じ時期に他のサイトからもこういったお誘いはあったのですが、
他社のものは、みな、「あなたのお手元の漫画を掲載しませんか」だったんですね。
私、お手元に掲載できるような漫画がなくって(笑)。
ちょうどこの時期、イラストの仕事が入っていたのですが、
企画がなかなか進まなくてスケジュールが空いていました。
また、イラストのオーディションを受けたいと考えていた時期でもあり、
「その前にまず、comicoのオーディションを受けようかな」と軽い気持ちで参加を決め、
1日で描き上げたのが『ネト充のススメ』の第1話でした。
自分は、漫画家ではないから落ちたらすっぱり諦め、絵の練習に注力しようと思っていたのですが、
合格の連絡をいただき描かせていただけることになりました。
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 ▲comicoのオーディションに向け、最初に描いた主人公の森子(リアル)と林(ネトゲ)。
落ちたら、『ネト充のススメ』は、プライベートで描いてブログなどで公開しようと思っていたそう。


―――たまたまスケジュールが空いたところに、
タイミングよくオーディションの案内があったのですね。

黒曜燐さん: 本当に、すごい巡り合わせですよね。
私にとって漫画は、もちろん好きではありますが、時々単行本を買う程度で……
大好きな漫画家もいなければ、時間を忘れて夢中になった経験もほとんどありません。
だから、comicoがページ漫画のオーディションだったら、応募していませんでしたね。
WEB漫画という新しい分野だったから、私でも他の方と近いスタートラインに立てたのだと思っています。


―――イラストレーターとしては、どんなお仕事をされていたのですか?

黒曜燐さん: 本の挿絵やソーシャルゲームのカードイラストを描いたり、
アバターのデザインなどをさせていただいています。
最近では、『時代を切り開いた世界の10人 第5巻 マーガレット・サッチャー レジェンド・ストーリー
(学研教育出版)』の挿絵を描かせていただきました。

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 ▲ 黒曜燐さんが挿絵を担当している『時代を切り開いた世界の10人 第5巻 
マーガレット・サッチャー レジェンド・ストーリー(学研教育出版)』


―――イラストレーターのお仕事をされるようになったきっかけを教えてください。

黒曜燐さん: 小さい頃から絵は大好きでしたが好きなだけで、学校を卒業したあとは、就職をして、
イラストとはまったく関係しない仕事をしていました。
でも、やはり諦められなくて、退職してイラストレーターを目指しました。
この時点では、仕事のあては全くなかったのですが、
もう会社を辞めてしまっていたので、前に進むしかなくって。
幸運なことにイラストレーターとして活躍している知人が、取引先の会社の方に自分を紹介してくださって、
絵を見ていただき、そのまま仕事をいただくことができました。
自分の名前を載せてもらえる仕事ではありませんが、
絵を描いてお金をいただけるということは、当時の私にはすごく大きなことでした。

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▲『マーガレット・サッチャー レジェンド・ストーリー』では、黒曜燐さんの名前がクレジットされている。


●読者が楽しみに待っていてくれることがいちばんうれしい

―――現在、イラストレーターとWEB漫画家、2つの側面を持っていらっしゃいますが、
『ネト充のススメ』は、どのくらい時間をかけて描いているのですか?

黒曜燐さん: 平均すると1話に5日くらいかけています。
もちろん、毎日徹夜で描いているわけではありませんが、
それでも1週間の大半は『ネト充のススメ』に費やしています。
イラストレーターの仕事は、その合間に行なっています。
WEB漫画家としてもイラストレーターとしても、まだまだ経験不足で段取りが良くないところもあり、
体調を崩してしまうこともありました。


―――週刊連載は、体調管理が大切ですよね。
ところで、ストーリーは、どうやって考えているのですか?

黒曜燐さん: 結末はすでに決まっているのですが、そこにいくまでの各話は、その都度考えています。
といっても1話ずつではなく、何話かまとめて作っています。
3話先でこういう話を描きたいから、その前の1、2話では前提条件となることを
全部描いておくのようにですね。たとえば、突然、林とリリィが仲良くなっていたら不自然ですよね。
また、ギルドメンバーと親しくなっていないのに相談するシーンが登場したら違和感がありますよね。
そういうことがおきないよう、伏線を積み重ねていきます。

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▲『ネト充のススメ』主人公の森子


―――昨年の10月より連載がスタートして半年が経過しましたが、
comicoに参加して良かったことはありますか?

黒曜燐さん: 『ネト充のススメ』は、水曜日に新作がアップされますが、
読者のみなさんに「やっと水曜が来た」「いちばん楽しみ」と仰っていただけることが特にうれしいです。
水曜の0時を過ぎると、水曜連載の新作が順番にアップされていきますが、リロードを繰り返して、
『ネト充のススメ』が更新されるのを今か今かと待っていてくださる方がいらっしゃるんです。
また、Twitterにリプライで感想をいただけるだけでもうれしいのに、
作品の下にあるコメント欄にも同じ感想を書いてくださる方もいます。
そのほうが作家さんにとって良いからって。
こんなステキなみなさんに出会えて、comicoに参加して本当に良かったと思います。


―――反対につらいことを教えてください。

黒曜燐さん: 今、いちばん大変なのは、ネーム※ですね。
私は、他の作家さんとは違い、手書きでプロットを組んでおらず、すべてデジタルで行なっています。
だから、ネームは下絵も兼ねていて、ここで引いた線をもとにきれいな絵を描いています。
ネームを切りながらある程度描いたら読むを繰り返し、
そこで「つまらない」と感じたら全部捨てて描き直しています。
途中まで描いたものがつまらなかったら、その先が面白くなることはないですからね。
自分がダメだと判断したら、何度でも捨てて描き直しています。

※ネーム
漫画を描く前にコマ割や構図、キャラクター、セリフなどを配置したもの。

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▲23話の作品(左)とその下絵兼ネームの一部(クリックすると大きくなります)。


―――厳しいこだわりが、人気作品を生み出しているのですね。
セリフ1つ1つも魅力的ですね。
個人的には、22話の森子のセリフ「ネトゲの空気はうめーな」が好きです。

黒曜燐さん: 会社員だった頃、忙しすぎて自分の時間がまったく持てない日が続いていたときや、
ハードな1週間を乗り越えた金曜日の夜にログインしたときに思った
「今日のネトゲの空気は、心なしかうまい気がする」をそのままセリフにしました。
「シャバの空気はうまい」みたいな感じでしょうか(笑)。自分でも少し気に入っています。


―――口には出さないけど、みんなが思っていることをうまく言葉にされましたね。

黒曜燐さん: 悩み事があってゲームを楽しめなかった森子が、
すべて解決させて開放感に包まれていたとき
「これで森子も心置きなくゲームができるだろう」と思い、このセリフを言わせました。
森子が悩み始めてからこの回までの間、森子のキャラクターレベルは100のまま止まっているのですが、
気づいた方はいらっしゃいますでしょうか。もちろんこういったところは、ストーリーを追う上では、
見なくてもまったく影響はないのですが、細かいところまで注目していただけるとうれしいです。


―――そういったところにまで主人公の心理を反映させているのですね。

黒曜燐さん: そうなんです。他にもたくさんあって、たとえば、MMORPGでは、
ギルドメンバーの名前のあとによく一言コメントを書くスペースがありますが、
当作品では、各キャラクターたちの日常が垣間見えるコメントを載せています。
また、本編とは全く関係ないですが、12話で森子がコンビニで買ったレトルト食品や
カップ麺の名前も結構しっかりと考えているんですよ。
「たたいて増えるワカメ」「知り合いしちゅう(シチュー) どこかよそよそしい味」などなど。
自分なりにクスッときたものを描いたのですが、結果としてはあまり気づかれなくて少し寂しかったです。
どうでもいいネタなんですが(笑)。
スマートフォンで見るとそんなところまで描かなくても良いように思えますが、
パソコンで見るとかなり大きく表示されるので、細かい部分まで手が抜けないんですよ。
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▲森子は、ネトゲ内ではイケメン林に変身!


●人生に無駄な経験はない

―――以前は、よくオンラインゲームをプレイしていたとのことですが、
最近はどうですか?

黒曜燐さん: 最近は、忙しくてほとんど遊べていないですね。
もう少し前倒しで漫画を描けるようになったら、またプレイしたいです。
作品のネタ探しはもちろんですが、純粋に昔のようにネットゲームを楽しみたいですね。
最近は、自分がプレイできないから、遊んでいる友だちに状況を聞いて、漫画を描く参考にしています。


―――オンラインゲームをプレイしていて良かったことはありましたか?

黒曜燐さん: もちろんです。その日にあった嫌な経験を少し愚痴るだけでも共感してくれたり、
友だちが頑張っている話を聞いて「自分も頑張ろう」と元気をもらったり……
作中では、森子がギルドメンバーに勇気をもらい桜井のメールに返信することを決意しますが、
私もオンラインで出会ったたくさんの仲間に励まされてきました。


―――では、反対に嫌な経験をしたことはありますか?

黒曜燐さん: ありますよ。私に限らず、ネット上で嫌な経験をされたという方は少なくないかと思います。
でも、そこで「ネトゲってこんなもんなんだ」と思ってほしくないんです。
最近では、『ネト充のススメ』を読んで「オンラインゲームを始めました」
と言って下さる方もいて、すごくうれしいです。
でも、その一方で、世の中にはいろんな人がいるということを知ってほしいんですね。
今、作品に登場するキャラクターは、仲間思いの良い人ばかりなので大きな揉め事は起きないのですが、
これからは、口の悪い人やモラルのない人なども描いていく予定です。
私も、できることならオンラインゲームの楽しいところだけを描いていきたいのですが、
「こういうことをすると嫌な気持ちになる人がいるよ」ということを見てもらうことや、
「こういう経験をするかもしれないよ」ということを事前に知ってもらうことは、
必要なことではないかと思っています。


―――知っていれば心構えができますね。
最後に作品をとおして伝えたいことを教えてください。

黒曜燐さん: インターネット上では、簡単に人との関係はきれてしまいます。
嫌なことがあったら、すぐシャットダウンすればいいですからね。
でも、嫌なことはあっても、それ以上にそこには、良いこともあったのではないでしょうか。
だから、私は、結果としてどの出来事にも無駄なことはなかったと思ってほしいです。
三十路でニートの森子は、相当人生に躓いていますが、私は森子の選択を悪いとは思っていないんです。
森子には必要な時間だから。
森子は会社を辞めるとき、三十路で無職になることがどういうことかを考えていて、
それでも辞めるくらいつらいことがあったなら、次に社会復帰するにはお休みが必要ですよね。
今はまだ休んでいてゲームの世界にのめりこんでいますが、これから少しずつ前を向き歩き始めていきます。
もちろんそこには、励ましてくれ、助けてくれる仲間はいますが、
それでも最後は自分でなんとかするしかないんですよね。
森子からそういったところを感じていただき、「自分も頑張ろう」と思っていただけたらうれしいですね。


【 インタビューを終えて 】
「取材は今回が初めてなんです。うまく答えられなかったらすみません」とお話されていた黒曜燐さん。
しかし、いざインタビューが始まると、初めてとは思えないくらい作品への思いを熱く語ってくださって、
その姿からいつも作品と真摯に向き合っていること、そして何より作品を愛している様子が伝わってきました。「今後はどんなことに力をいれていきたいか」には、「漫画」や「イラスト」ではなく、
「人に喜んでもらえることを行なっていきたい」と回答された黒曜燐さん。
喜んでもらえることは、時とともに変わっていくかもしれませんが、
今、たくさんの方が楽しみにしているのは『ネト充のススメ』ですね。
これからも、新作期待しています。でも、くれぐれもお身体は大事にしてくださいね。
黒曜燐さん、ありがとうございました!


●作品紹介
ネト充のススメ(連載中:毎週水曜日更新)

枯れた三十路女もネットならイケメン男子になれる!
ネト充になるべく新しい冒険世界へ!

●作家プロフィール
黒曜燐(こくようりん)

静岡県生まれ。イラストレーター。
『時代を切り開いた世界の10人 第5巻 マーガレット・サッチャー
レジェンド・ストーリー』(学研教育出版)の挿絵を担当。
会社員時代は、ネト充ライフを満喫していたが、
最近はすっかりネト充から遠ざかっている。
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